中津新聞

2019.03.18

「湯かげんがよいまち」中津を愛する看板店主|カフェ&バル店主・清水暁さん


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今回取り上げるのは、商店街の中でもひときわ個性的な佇まいのカフェ&バル「Mmm Que Rico (ンケリコ)」を営む清水暁(あきら)さんです。

お店に伺ったのは火曜日の昼下がり。平日にもかかわらず、客足も途絶えずに少し慌ただしそうでした。ふと目についたソファ横の分厚いアルバムを手にとってパラパラと・・・。そこにはこのお店ができあがるまでのひとつひとつのできごとと、それに関わる人たちとの物語が綴じられていました。
数百枚もの写真、1枚1枚に説明できるストーリーがある、そんな暁さんの物語を紐解きます。



【3人のバランスが心地いい店を作る】
静岡県浜松市出身の暁さん。大阪には大学進学時に移り住み、以前は南堀江にも9年ほど住んでいたそうです。ただ、静岡生まれの体内時計には、南堀江のような都会の喧騒は少し合わなかったそう。その後、自然を求めて大東市に引っ越し、4年程経って結婚もした頃に、中津に拠点を移すターニングポイントがありました。

きっかけは、奥様の瞳さんが10年働いていた飲食店を辞めようかと考え始めたこと。一方の暁さんも一般企業で長く勤めていたものの「この仕事をずっと続けるのかな?」という疑問があったといいます。将来、自分のお店を持つことが瞳さんの夢だったこともあり「ならばこの機会に」と、サラリーマンを続けながら瞳さんを手伝い、今の地にお店を開くことに踏み切りました。

以前から音楽をやっていた暁さんにとって、中津はスタジオが近く静かで気に入っていたエリアでした。中でも、大好きな旅行に行けないときの息抜き場所として「カンテ・グランデ」にはよく通っていたとか。広くてガラス張りの半地下空間に、ジャングルのような緑から木漏れ日が射し込む素晴らしすぎるロケーションに「中津にこんな場所があるんだ!」とショックを受け、それ以来ずっと中津のことが頭の中に残っていたそうです。

いい物件がなかなかなか見つからなかったところに、友人が見つけてくれたのがこの場所。大急ぎで現地に向かい目にしたものは、床に穴が空き、荒れた室内・・・。一度は怖気づいたものの、「『住居の1階でお店ができ、猫も飼える、現状復旧もしなくていい』という望み通りの条件のこの場所に対して、どれだけ根性を見せられるかじゃないか?」と考え直し、この場所に決断しました。

瞳さんは料理全般を受け持ち、暁さんは音楽や設備、お店のデザインを追求するという、役割の棲み分けができている2人。また重要ではあるがお互いに得意分野ではないもの――例えばお酒に関してなどは一緒に考えるそうで、そこに果実酒を作ってくれたり、アイデアをくれる瞳さんの母・久美子さんが加わる。3人のバランスがちょうどよく相まって、このお店独特の色が生まれています。
最近はお客さんも増え3人で切り盛りするには少し大変になってきた様子ですが、それでも従業員を雇ったり、多店舗展開などで大きく事業を拡大することは考えていないといいます。
「それよりもここでしっかり稼いで、残った時間は遊びたい。しっかり働いて、しっかり遊びたい人なんで。でないと、いいものは生まれないと思うんですよ。僕はとにかく外に出て、いろんなものやノウハウを得たいっていうのがあるんで、店舗展開なんてする気もないです。」

事業を拡大することでクオリティを保てなくなったり従業員のケアに手が回らなかったりということになるくらいなら、むしろこの場所をもう少しだけ大きくしたり賃貸を買い取って足元を固めたい。そう話す根底には、ゆっくりのんびり落ち着けるお店づくりを追求し、お客さんの顔が見える距離感を大切にしたいという想いがあるようでした。

 

【デザインの源はアイデアと審美眼】
レトロなガラスを組み合わせたファサードや瓦屋根の庇。外観もさることながら、猫のシルエットがシンボルの扉を開けて店内に入ると、大きな曲線を描いたカウンターテーブルの奥に、天井から浮き出ている大きなクジラのレリーフ。初めてこのお店を訪れたときは、目に飛び込んでくる情報の多さに、少し圧倒されました。どうしてこのようなデザインになったのでしょうか?

「ブラジルのデザインと島根の石州瓦にすごくひかれて。床のタイルにも石州瓦を使ってるんです。」
そう語る店内の円柱やメニューに描かれている建物のイラストも、ブラジルに新婚旅行に行ったときに目にした「ファベーラ」という街並みをモチーフにしたアートからヒントを得たそう。
ずっと旅行とデザインが好きだった暁さんは、大学の頃からバイクで出かけ、いろいろと見聞きをしたり写真を撮ったりするうちに、「自分はこう言うものが好きなんだ」ということにだんだん気づいてきたそうです。それを軸に、気になったモチーフや用途に合ったデザインを店づくりに取り入れました。

大きな曲線を描いたカウンターも、当初は瞳さんが一人で切り盛りすることを想定したことから。作った料理を表に出なくてもカウンター越しに提供できる状態でありながら、お客さん同士も話がしやすい角度になることを兼ね添えた形にしたいとデザインされたとか。

「京都の『イノダコーヒー三条店』の円形のテーブルや『カフェコチ』の曲線を描いたカウンターが好きで印象に残っていて、曲げてみたらテーブルっぽくなって話しやすくなるんじゃないかと。カウンターで3人以上は話しにくいので。工務店では絶対やってくれないし、彫刻家の友達に協力してもらって、形を実現しました。彼がいないと絶対できていない。すべてを知っている男です。」
お店づくりは最初から完全に自分たちでやろうと思っていたそうです。彫刻家の友人に指導を受けたり、時にはパーティ形式で取り組んだそうで、冒頭のアルバムにもたくさんの人が登場していました。1枚1枚めくるごとに、たくさんの身近な人から協力を得て、想いを込めてつくり上げていかれた様子が見て取れました。

「お店を作るなら、とことんデザインはしっかりやりたい」という暁さん。しかしいくら外見が良くても味が伴っていない飲食店も多くみられますが、そういった店は好きではないといいます。
「自分の主張をしっかりと出し、それに共感してもらえたり影響を与えられたら嬉しい、嫌いなら嫌いでなにか意見をもらえたら面白いな、というぐらいの意気込みで世の中に投げかける。それにはやっぱりひとつひとつに理由が絶対必要だと思うし、それがなかったらやる意味がないって思ってるんです。」と強く語ります。
瞳さんの料理はその投げかけができるレベルまで達していると判断したからこそ、お店の開業に踏み切ったそうです。

ちなみにこの日いただいたメニューのひとつは、「たっぷり旬野菜とチーズのサラダ」。
仕入れにもこだわった新鮮野菜がこれだけのボリュームで食べられるという、お店も自慢の一品です。
(実は筆者もリピートしてしまった一品。珍しい野菜が楽しく、チーズのアクセントが絶妙です!)

【肌に合う「湯かげんがよいまち」中津とのこれから】
商店街の中に店を構えながら、一住人でもある清水さんご夫婦。実際住んでみてどうですか?と問いかけてみたところ、「中津は湯かげんがよいまち」という、なんとも絶妙な答えが返ってきました。

「僕らが住み始めた時はまだ店が少なくって、地元の確執とかもあるのかな?なんてビクビクしながら来たんですけど、すごいいい人たちばっかりで。「やりたいようにやったら?」と言ってくれたり、お客さんとしても来てくれるし。宮北さん(中津新聞にも登場した豆腐店「味八喜多」)のお豆腐を店でも使っているんですけど、それだけでもありがたいのに、おばあちゃんがお皿持ってケーキ買いに来てくれたり。」
イベント時には音楽や人の集まりでいつもより少し賑やかになってしまうこともありますが、むしろそれに興味を持ってイベントを見に来てくれる方もいるそうで、そうした人のゆるやかな繋がりで支え合える関係性がきっと「湯かげんがよい」と感じられるのでしょう。



そんな中津の今後に、望むことはあるのでしょうか?
「このままを維持してくれるといいなというのが正味の話です。今の中津の雰囲気がすごく好きなので。穏やかでおっとりしていて。それでも欲を言えば、もうちょっと認知度が上がって人の流れができればいいなとは思いますけど、でもそれができたことで、ここでシャッター閉めて2階に住んでるおじいちゃんおばあちゃんがしんどくなるようなことはちょっと悲しいなというのはあるんで。そのへんのバランスが(大事ですね)」

まちが発展して注目され、人通りが増えるとどうしても若い人中心のまちになってくる。それでも「人を選ばず、訪れる人の敷居を下げたい」という暁さん。老若男女問わず、赤ちゃん連れや外国の方、初めてまちを訪れる方や、外食にあまり慣れていない方、どんな方に対しても敷居が高くなく、入りやすい雰囲気のお店でありたい――とても穏やかな物腰でそう語りながらも、芯にはしっかりとした自分のクオリティ基準と想いを持たれているその姿は、カラフルで尖ってはいるけれどなんだか居心地のよい和み感がある、あのお店の空間そのものだと感じました。

お店づくりのアイデアは一旦出し切ったので、今は新しいことをインプットしているところとのこと。中津のまちのように緩やかに「よい湯かげん」を保ちながら、ンケリコさんならではのこだわりとクオリティが光るお店であり続けてほしいと思いました。

 

こちらは看板猫のネギさん。
店内にはアルバムや扉の他にもたくさんの猫モチーフがあり、猫好きにはたまりません。

文/太田 友理子(中津新聞)


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